近年、デジタル技術の進化と顧客行動の変化により、オンライン保険が急速に成長しています。時間や場所を選ばずに、Webサイトで保険料の試算から申込みを行えるのが最大のメリットですが、操作手順がわかりにくかったり、オンラインのみでの手続きに不安を感じたりする方もいることから、その部分をサポートするコールセンターが重要な役割を果たしています。しかし、エージェントによる電話やチャットでの対応だけでは業務時間やリソースの制限があるため、チャットボットのような先進技術が注目されています。

今回お話を伺った外資系損害保険会社様がGenesys Cloud(当時はPureCloud)を導入したのは2017年。10社以上の候補の中からジェネシスを選んでいただきました。当時選定に関わったA氏は「現実問題として、当時、本当のクラウドと呼べるのはジェネシスしかありませんでした。その時点で未来を考えた場合、ジェネシス以外の選択肢は無かったのです。」と、当時を振り返ります。最初は電話対応からのスタートでしたが、2021年にGenesys Cloudを活用して、有人チャット・サービスを導入し、Webサイトで操作に困っているお客様のサポートを開始しました。しかしコストや人的リソースの問題から、電話も有人チャットも夜間や週末の対応はできていませんでした。

 

チャットボットの導入で24時間365日の対応が可能に

現場のコールセンターを統括するB氏は、「夜間や週末は、コール予約やメールによる受け付けを行って翌日対応するなどしていましたが、機会損失が発生しているのでは無いかという懸念は常に持っていました。」と言います。それを少しでも減らすために、2023年にGenesys Cloudの活用をさらに発展させ、Digital Bot Flowでチャットボットを構築しました。チャットボットは24時間対応が可能なため、夜間や週末のお問い合わせに迅速に対応することで顧客満足度を上げることが期待されました。同時に、日中のコールを減らす効果もあると考えられたのです。
お話を伺ったのはチャットボットの運用を開始してから1ヶ月と少しが経過した時点でしたが、最初の1ヶ月だけでも目覚ましい効果があったということです。
このオンライン保険会社様のカスタマージャーニーは大きく分けて3つあります。新規契約、契約の更新、そして契約内容の変更です。最初にチャットボットを導入したのは、新規契約と更新の部分でした。

チャットボットの導入効果① 24時間365日の対応実現によるcx向上

チャットボット導入後、土日祝日や夜間などの対応が可能となったことで、お客様からの問い合わせ対応件数がそれまでの倍となりました。B氏は「現時点で、想定の2倍以上の効果が出たのが解決率でした。」と言います。「チャットボットの効果は『未解決率』で見ているのですが、導入前は70%くらいを期待していました。チャットボットで3割くらい解決してくれれば良い、ということです。しかし、今の時点で未解決率25-30%という数値が出ており、7割以上が解決できていることになります。これは本当に予想外で、嬉しい誤算でした。」
さらには問題解決率が高まったことで、翌日などに電話で問い合わせする必要がなくなったため、コールの抑制効果にもつながりました。

 

解決率70%以上!~ロケットスタートの秘密は有人チャットでの知見の集積と入念な準備

B氏によると、これだけの短期間で大きな成果をあげることができた理由は2つあるということです。1つは有人チャットを運用した2年間の知見の積み上げ、もう1つは、それを元にしたシナリオの作り込みです。

「有人チャットを飛ばしてチャットボットを導入するやり方もあると思いますが、私はある程度有人チャットの運用経験を積んでからチャットボットを導入する方が良いと考えています。実際にお客様と接していない担当者が机上の想定の中で質問を考えて回答を用意したところで、その通りにお客様が質問してくるかどうかはわかりません。実際のコールやチャットを通じて日々お客様と接する中で、良くある質問や想定していなかった質問が蓄積されて行き、それをチャットボットのシナリオに落とし込むことで、導入後すぐに効果を上げることができたのだと考えています。」(B氏)

現場でチャットボットのシナリオの作り込みを主導しているC氏は「チャットボット導入前に、相当時間をかけてシナリオの作り込みをしましたが、導入後も継続的に見直しや改善を行っています。内容のコンプライアンスチェックなどもあるので、実際の更新は1ヶ月に1回くらいの頻度になると思いますが、簡単な修正であれば現場で即座に行うこともあります。」と言います。また、C氏の発案でジェネシスのナレッジを導入したことで、過去の知見をエージェントにリアルタイムで提供することも可能になりました。将来的には、関連する情報が自動でポップアップされるようにして行きたいということです。

 

今後もデジタル化を進め、EXの改善にも繋げて行きたい

同社の場合、単にボットを導入してお客様による自動解決率がゴールではなく、ボットと人を組み合わせることで、新しい顧客体験を生み出すことが究極の目標です。

チャットボットの導入効果② お客様対応自動化による解決率向上

チャットボット導入後、顧客対応の自動化率は20%に達しましたが、有人チャットの営業時間中は、チャットボットでは解決できなかった問い合わせを有人が引き継ぐ、対応フローを導入することで、難しい問い合わせやお客様の事情に合わせた問題を解決することで、顧客体験の改善に取り組んでいます。実際にボットで対応しきれなかった課題については、エージェントの対応時間も長くなる傾向にあると言います。

B氏は「弊社では効率化によって、人員を削減するのではなく、効率化によって空いた時間を、CXの向上やエージェントの働き方改革に繋げて行きたいと考えています。」と抱負を語ります。「たとえばコール数が減ることでお客様に対応できる時間が増えれば、AHTを伸ばしてCXを向上させることができます。あるいは、エージェントから新商品を紹介することで、売上を伸ばすことができるかもしれません。エージェントをWebサイトの改善に参加させるなど、仕事の幅を広げ、新しい働き方が可能になれば、EXも改善できるのではないかと考えています。」

今後の展開としては、テキストだけで無くボイスボットの導入を考えており、既にPoCを始めていると言います。ボイスボットのシナリオについては、チャットボットのシナリオをベースにできるため、最初からスクラッチで作成するよりも短期間での導入が可能です。また生成AIについても、WebRTCとの併用など、さまざまな可能性について考えています。

クラウドサービスの最大のメリットは、絶え間なく機能が追加され、改善され続けることです。ジェネシスは今後も、最新のデジタル技術をタイムリーにサポートし、お客様をサポートしていく所存です。