顧客からの期待に応えるため、企業は AI(人工知能)を導入し、事後対応型サービスからプロアクティブなサービス(先取り型サービス)へと移行しています。従来のカスタマーエクスペリエンス(CX)モデルでは多くの場合、問題が発生した後に対処します。しかし、AI を使用すれば、企業は顧客が問題の存在を認識する前にニーズを的確に予測し、解決策を提示することができます。

こうしたプロアクティブな戦略は、プレディクティブ・エンゲージメント(予測エンゲージメント)を強化し、先回りして顧客のニーズに応えることができるため、CX を大きく向上させます。AI は、企業が一歩先を行くうえで非常に貴重なツールとなるのです。

目次

 

プロアクティブサービスにおける AI の効果

従来の CX アプローチでは、顧客が問い合わせしてから問題が発覚します。つまり事後対応のため、顧客はフラストレーションを感じ、大切にされていないと感じる可能性があります。一方、AI を活用したプロアクティブな CX の場合、企業はニーズを予測し、問題が発生する前に顧客をサポートできるようになります。また、顧客が気づくことなく、問題を事前に解決することも可能です。

Genesys のレポート「AI 時代のカスタマーエクスペリエンス」によると、調査に参加した CX リーダーの 72% が、将来的には人工知能によりプロアクティブなサービスアウトリーチが促進されると考えており、CX 変革における AI の重要性を示しています。

プロアクティブサービスへの移行は、顧客のニーズを満たすだけでなく、信頼とロイヤルティの向上にもつながります。同レポートによると、調査に参加した CX リーダーの 59% が、カスタマーエクスペリエンスに AI を導入することで顧客ロイヤルティと顧客生涯価値(LCV)が向上すると考えています。

企業は、AI の予測機能を活用(「Want to Jump-Start Your CX? Adopt AI」)することにより、押しつけがましいサポートではなく、パーソナライズされた適切な、思いやりのあるサポートを提供できます。AI は、顧客の手を一切煩わせることなく、顧客の行動パターンを検出し、潜在的な問題を特定し、顧客ニーズを把握して、タイムリーなソリューションを提供します。AI は顧客のニーズを事前に予測し、対応できるため、CX の強化以外にも活用できます。例えば、長期的なカスタマーエンゲージメントの構築にも効果的です。

 

AI を利用した競争力の強化

プレディクティブ・エンゲージメントとプロアクティブアウトリーチ(先取り型のサービス提供)は、AI を活用したプロアクティブサービスの中核です。どちらも、タイムリーで効率的なサービスが顧客ロイヤルティに直結する業種では特に有効です。

プレディクティブ・エンゲージメントにより、AI は膨大な量の顧客データをリアルタイムに分析し、潜在的な問題点、傾向、今後の顧客ニーズを特定できるため、企業はプロアクティブな顧客エンゲージメントを実現できます。例えば、人工知能ツールを使えば、まもなく製品サポートが必要になりそうな顧客の購買パターンやサイト行動を検出することができます。顧客からの問い合わせを待つのではなく、企業は先にリソース、ヒント、トラブルシューティングサポートを提供できるのです。

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Genesys Cloud AI:サービス効率とパーソナライゼーションの強化

プロアクティブアウトリーチはプレディクティブ・エンゲージメントと連携し、問題がエスカレートする前に対処できるため、顧客の負担が軽減します。AI ベースのアウトリーチを適用すれば、問題解決用のサービスチャネルに顧客を誘導するのではなく、適切なタイミングで適切なチャネルを通じて適切なサポートを提供できます。

例えば、AI は、顧客が繰り返し技術的な問題に遭遇しているのを特定すると、パーソナライズされたメッセージを自動的に送信して、解決策を提示したり、知識豊富なオペレーターとつないだりすることができます。カスタマージャーニーを合理化できるだけでなく、顧客のフラストレーションを軽減し、顧客とサービスチームの両方の貴重な時間を節約できます。

調査に参加した CX リーダーの 66% が、AI によって CX チームのエンゲージメントが高まると考えていることは、不思議ではありません。なぜなら、プロアクティブアウトリーチにより、AI が日常的な問題に対処するようになれば、従業員が単純業務から解放され、複雑なタスクに集中できるようになるからです。

プロアクティブアウトリーチは、問題を解決するだけでなく、パーソナライズされたオファーやレコメンド機能を通じて価値を提供します。AI を活用したシステムは、購入履歴と行動データを分析し、セルフサービスやオペレーター主導のインタラクションの際に各顧客の固有の傾向に合致した関連性の高い提案をタイムリーに行うことができます。この「次のステップにおける最適なアクション」を行うアプローチにより、企業は顧客を理解し大切にしていることを示し、カスタマーエンゲージメントを深めることができます。

 

予測分析を活用して CX を変革

予測分析は、プロアクティブサービスの基盤です。AI ベースの予測分析を利用すれば、企業は顧客とのインタラクション、顧客の行動、傾向からインサイトを収集し、将来の顧客のニーズや潜在的な問題を予測できます。このインサイトを活用して、企業は顧客の要求を予測し、顧客の期待を上回るような対応を行うことができます。詳しく調査した結果、特に大きな効果を持つ領域は次の 3つであることが分かりました。

  • ジャーニーオーケストレーション:ジャーニーをパーソナライズして、企業が顧客一人ひとりのニーズに対応し、顧客が最も支援を必要とする場所とタイミングでコンタクトできるようにします。
  • ジャーニー分析:同様のジャーニーを辿り、ニーズを持つすべての顧客をサポートできるよう、改善すべき点を明らかにします。ブランドは、あらゆるチャネルやインタラクションポイントでエクスペリエンスを改善できるようになります。
  • ジャーニーの最適化:新規エクスペリエンス(特定の顧客向けにカスタマイズされたエクスペリエンス)が計画どおりに機能するように調整します。CX リーダーの狙いどおりに、確実に変更を適用できるようになります。

Genesys のレポート「AI 時代のカスタマーエクスペリエンスの調査結果により、潜在的な効果が明確に示されています。調査に参加した CX リーダーの 76% が、AI を利用してカスタマーエクスペリエンスをパーソナライズしています。また、72% が AI を利用してカスタマージャーニーの問題点を特定しています。

予測分析により、企業は顧客の行動をリアルタイムに把握し、ジャーニーのあらゆるフリクションポイントにプロアクティブに対処できるようになります。この機能を利用することにより、「どのように修正できるか」から「どうすれば防止できるか」にサービスモデルの方向が大きく変わるのです。

 

AI を活用して共感を生み出すことが、プロアクティブサービスの核

プロアクティブサービスは効率性と結び付けられることが多いですが、共感とエクスペリエンス全般を提供する手段でもあります。AI ベースの感情・共感分析を利用することにより、企業はキーワードや行動、過去のインタラクションに基づいて、フラストレーションや不満を感じている顧客を特定できます。さらに、オペレーターは共感と理解を持って顧客をサポートし、顧客の不安に向き合いながら解決策を提供することができます。

共感分析は急速に CX リーダーの関心を集めており、調査に参加した CX リーダーの 20% がすでに AI を活用した共感ツールを導入して顧客とのインタラクションを強化しています。この AI を活用したアプローチは、人間同士の共感に代わるものではありません。オペレーターにリアルタイムのインサイトを提供して、よりパーソナルな顧客エンゲージメントを可能にし、人間の共感力を増強するものです。顧客の不満をくみ取る場合も、最適なソリューションを完璧なタイミングで提供する場合も、AI を活用した共感ツールは、顧客視点で感情をインテリジェントに理解するプロアクティブサービスに欠かせないものとなっています。

 

プロアクティブな AI 実装の課題と活用法

AI を実装してプロアクティブサービスを行うにあたっては、課題もあります。上記のレポートで強調されているように、データ品質とセキュリティは多くの CX リーダーにとって最大の課題であり、調査に参加した CX リーダーの 64% が AI 導入の主な障害としてデータプライバシーを挙げています。

プロアクティブサービスを提供するためには、大量の高品質なデータにリアルタイムでアクセスできるシステムが必要になります。そのためには、堅牢なデータ管理と厳格なセキュリティプロトコルが必要です。

また、社内で AI 導入への反対が起きるかもしれません。調査に参加した CX リーダーの 66% は明確な AI ロードマップがあると回答していますが、49% は従業員が AI に関する不安を抱いていると回答しており、それは人員削減に対する懸念に関係している場合が多いです。

このような障壁を乗り越えるために、企業は従業員中心の文化を推進し、人間の能力に置き換わるのではなく人間の能力を強化するツールとして、テクノロジーの重要性を強調する必要があります。継続的なトレーニングを提供し、顧客と従業員のエクスペリエンス向上における AI のメリットを強調する(「Preparing Your Contact Center Workforce for the AI Revolution」)ことで、従業員の理解を得ることができます。

課題はありますが、AI を活用したプロアクティブサービスを実装する潜在的メリットは無視できないほど大きくなっています。顧客は常にパーソナライズされた効率的なサービスを求めており、CX における AI の役割は拡大する一方です。実際、調査に参加した CX リーダーの 83% はこのテクノロジーが将来の重要な差別化要因になると考えており、57% は業績の向上につながると予測しています。

 

プロアクティブの CX の未来をサポート

AI を活用したプロアクティブサービスへの移行は、カスタマーエクスペリエンス戦略のパラダイムシフト(「How AI Is Powering Results at Scale for Three Genesys Customers」)です。AI を利用して顧客ニーズを予測し、問題が発生する前に対処し、顧客とのやり取りをパーソナライズすることで、企業は CX を強化し、シームレスで顧客に寄り添った共感力の高いエクスペリエンスを提供できるようになります。

このテクノロジーを CX 戦略に組み込むことに成功すれば、企業はサービスを強化できるだけでなく、急速に進化する顧客中心の市場環境においてリーダーとしての地位を確立できます。

プロアクティブサービスにおいて AI を最大限に活用するために、CX リーダーはデータ品質を重視し、予測分析や共感・感情分析などのツールに投資し、継続学習とイノベーションを支援する文化を醸成する必要があります。このプロアクティブサービスのアプローチにより、企業は競争の激しい市場において自社を差別化できるだけでなく、顧客ロイヤルティと信頼を構築し、長期的な成功を収めることができるのです。

顧客と従業員のエクスペリエンスを向上させるために、CX リーダーは AI テクノロジーをどのように利用しているのか(または利用しようとしているのか)について、詳しくはレポート「AI 時代のカスタマーエクスペリエンス」の全文をご覧ください。