新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、小売業者とその従業員、そして消費者に、ありとあらゆる行動の変化をもたらしました。 米国商務省によると、2020年はeコマースの利用が激増し、前年比44%の成長を達成しました。消費者が買い物の場所をオンラインに移したためです。 その影響は小売業全体に及んでおり、今後も続くと見られます。
オンライン購入は、注文処理や非接触型の商品受け取りなど、実店舗とデジタルのショッピングチャネルの連携を伴う新たなニーズを急増させました。 また、デジタルのカスタマーサービス・チャネルに対するニーズも拡大しました。
このような変化に対応するテクノロジーを導入していない小売業者は、この流れについていくために奮闘しなければなりませんでした。 旧式のテクノロジーに囲まれ、ベンダーやパートナーの複雑なエコシステムに縛られていたため、ニューノーマルへの適応には多大なコストがかかりました。 生き残りをかけた動きが加速するなか、従来の旧式テクノロジーでは、カスタマーエクスペリエンスの長期的な目標の達成にもあまり寄与しないことがわかっています。
小売業者にとって目下の重要課題は、あらゆるエンゲージメントチャネルを通して可能な限り優れたエクスペリエンスを提供し、顧客満足度を維持することです。そのためには、エコシステムを簡易化し、データを統合しなくてはなりません。 企業は今こそ、競争の優位性を確保できるテクノロジーの利用方法を再考すべきです。 以下の4つの領域に焦点を当てれば、良いスタートを切ることができるでしょう。
1. カスタマーエンゲージメント・プラットフォームの統合
1つに集約されたシンプルなエコシステムがあれば、小売企業はすべてのエンゲージメントチャネルにわたって、一貫した消費者エクスペリエンスを提供することができます。 オープン・クラウド・プラットフォームの導入により、複数のシステムの維持に時間とコストをかけることなく既存のテクノロジーを統合し、新しいテクノロジーを迅速に追加することが可能です。 目まぐるしく変化する市場にもスピーディに対応でき、繁忙期にはスケールアップして消費者に最適なサービスを提供できる柔軟性も確保します。
単一プラットフォームは、 タイムリーに問題に対処しなければならないカスタマーケアのオペレーターにとっても便利なものです。 複数の画面を切り替えて情報を探す操作は、タイムリーな問題対処の妨げとなります。 データは複数のシステムから取得されるため、オペレーターは顧客の全体像を把握するのに、情報の断片をパズルのピースのようにつなぎ合わせなければなりません。
システムを1つのプラットフォームに統合してオペレーターに1つのデスクトップを提供することにより、複数のシステムやツールを行き来する必要がなくなります。 これは、時間とコストを節約し、オペレーターの時間を浪費せずに済むだけでなく、トレーニングの簡易化や問題解決時間の短縮にも貢献します。
2. カスタマージャーニー、およびチャネル全体にわたるカスタマーエクスペリエンスの調整
多くの小売企業は、電話、チャットボット、メッセージングアプリなど、複数のツール、複数のチャネルを使用して消費者と交流しています。 これらのツールを管理し、顧客との複数のやり取りを一元的に把握するには、オムニチャネル・オーケストレーション・エンジンが必要です。
しかし、オムニチャネルは、複数チャネル間のコミュニケーションをただ円滑化するだけではありません。 複数チャネルのオーケストレーション(リンク)を通して「エンゲージメントのサイロ」をなくすことにより、個別のやり取りではなく一貫性のあるサービスを顧客に提供できるのです。
顧客が、荷物が届かないと倉庫に問い合わせたとします。 するとチケットが作成され、会話が記録されます。 顧客はその後、テキスト経由で最新情報を求めます。 その前のやり取りに基づき、速やかにオペレーターを介入させ、機械ではなく人が対応しているという安心感を与えることが望まれます。 オーケストレーションでは、あらゆるやり取りに基づき顧客を次のステップへと誘導できます。このとき使用するのが、適切な対応や次善策(オペレーター、ボット、特別なメッセージなど)を自動的にトリガーするワークフローです。
Webサイトのアクティビティー、SNSへの投稿、電話、メールなど、あらゆるチャネルの情報を使用することにより、次の対応に進むために必要な情報が得られます。 事実、オムニチャネルの最大のメリットは、チャネル間での情報利用、すなわち、どのチャネルからアクセスしても、だれが何について話しているか分かる点です。 これが解決までのステップを簡易化し、 企業と顧客、双方の手間を省きます。
3. 顧客の条件に基づくパーソナライズ、予測、対応
ショッピングジャーニーを効率的に管理するには、重要なタッチポイントを把握しておく必要があります。 そこから得られるインサイトは、そのジャーニーにおける顧客のニーズや優先事項の予測に使用できます。
予測エンゲージメントは、AIを使用してリアルタイムで消費者を分析し、積極的なエンゲージメントを行うものです。 チャットの開始やコンテンツ提供を自動化して、顧客を次のステップへと誘導します。
83%の顧客が、ショッピングエクスペリエンスのパーソナライズを望んでいます。
McKinsey & Company, Future of Retail Operations: Winning in a Digital Era, 2020
顧客についての情報を継続的に収集していくと、カートの放棄や顧客離れのリスクを引き起こすポイントが見えてきます。 この情報は、アクションを起こすタイミングを正確に見極め、ビジネス成果やカスタマーエクスペリエンスを最適化するために利用できます。
消費者側が積極的でない場合も、ブランド側から積極的に働きかけることにより、その消費者を認識し、ニーズを理解していることを示せます。こうした働きかけは、問題が起こる前、もっと言えば消費者が問題を感じていない段階でも可能です。 例えば、Webサイトを訪れ、その後どこへも進んでいない消費者に対して、チャット経由で話しかけることができます。
4. あらゆるエクスペリエンスに共感を示す
共感とは、他者が体験していることをその人の視点から理解したり、感じたりすることです。 消費者との会話において共感を示すことができれば、信頼関係を築くことができ、 ロイヤルティーの構築につながります。 小売業の場合、ロイヤルティーの高い顧客はリピーターとなり、高い顧客生涯価値(CLV)をもたらします。
カスタマイズされたエクスペリエンスの提供は、共感を示すための優れた方法です。 顧客とのやり取りを包括的な単一ビューで把握することにより、顧客の優先事項やニーズをより深く理解できます。 また、AIを使用すれば、次の最適なアクションや返答を予測したり、成果をモニタリングして継続的に改善することもできます。
共感的なエクスペリエンスの醸成に重要なのは、人間の関与ではありません。顧客が必要としているものを、必要なときに、可能な限り簡単な方法を用いて提供することが重要です。 巧みに設計されたセルフサービスを選択肢として提示することにより、消費者は必要なサポートを簡単かつ速やかに受けられ、オペレーターはより緊急性の高い案件に対応できます。
顧客の声に耳を傾けると、顧客に関する情報を毎回のやり取りから継続的に収集できます。 そこからは、顧客が足止めされている場所を見つけ、先へ進む方法を提案するなど、よりよいカスタマージャーニーを提供するためのインサイトが得られます。
気まぐれな消費者は、問題が生じれば、別の小売店へと簡単に乗り換える可能性があることを忘れないでください。 個人的かつ共感的なエクスペリエンスを通して、自分が認識され、気にかけられ、理解されていると消費者が感じれば、そのブランドエクスペリエンスを捨てて未知の怪しいエクスペリエンスへと向かうことはないでしょう。
結論
優れたカスタマーエクスペリエンスの設計は、多くの小売業者にとって複雑で競争の激しいものになっています。 しかし、消費者、オペレーター、ブランドの三者にメリットをもたらし、かつ、これを簡易化する方法があります。
オペレーターの作業を効率化すると、消費者のブランドエクスペリエンスも向上します。 カスタマージャーニーをシンプルにし、適切なタイミング、適切なチャネル、適切な情報を用いて消費者と積極的に交流できるのは、オペレーターです。 共感と理解を、あらゆる会話の基盤にしましょう。